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正文 第29节

  本を読まされる。これはなかなかつらいことだった。

  第三にc父の頭がちょんまげでないこと。わが家だけがなにかのけ者あつかいされているようでcみっともない気がする。

  宗之助がこれらを父に言うとc宗白は答えた。

  「いいかcおまえはやがてcわたしのあとをつがねばならぬ。患者の脈をみなければならない。木刀を握ったふしくれだった手ではcありがたみがない。またc皮膚が厚くなっていてはc脈の微妙な変化を判定しにくいのだ」

  「そういうものですか」

  「勉強をしなければならないのはc患者に文句を言わせないためだ。相手の読めないような字を読みc相手の理解できないような理屈をしゃべればcみな恐れ入ってくれる。それから頭のまげのことだがcこれはこういう習慣なのでcどうしようもないことなのだ」

  「わかりました」

  宗之助はcなっとくせざるをえなかった。いかに不満であってもc勝手に人生を選べない時代だ。商人や坊主になれるわけでもない。他の家臣の養子になることはできるがc長男ではそれも許されない。宗之助はこれらを知っておりc父の仕事をみならうべく努力した。

  時どきc父から薬草の調合をやらされる。薬や研げんという舟の形をした金属製の器具を使いc粉砕と混合をやる。さまざまな妙なにおいがたちのぼるがc幼少のころからなれていることでcさほどには感じない。

  しかしcこのにおいはわたしの衣服にしみこんでおりcすれちがう他人の注意はひくだろうな。しかしcくわい頭で医師だとはっきりさせておけばcああそのためかとc妙な目つきで見られなくてすむ。そのための髪形なのだろうな。宗之助はこう考えcひとりうなずく。

  宗白父子の住居にはcひきだしのたくさんついた棚がある。各種の薬草が分類されてしまわれているのだ。またcさまざまな呪じゅ文もんを書いた紙片も用意されている。他の人にはcなにやら怪しげなものを感じさせるかもしれない。

  宗白はむすこの宗之助にc学問のほかc骨つぎcハリcキュウcあんまをも教えこんだ。そしてcひまがあるとc宗之助に自分の肩をもませた。

  「これでcおまえに大体のことは教えた。あと二年もしたらc家督をゆずって隠居する。そのつもりでcしっかりやってくれ」

  「しかしcまだ自信がありません。薬草の使用法はなんとかおぼえましたがc呪文の紙の使いかたがよくわかりません」

  「本を読んでおぼえこむことだな。天地は木火土金水の五行とc六つの季節すなわち六気の運行で成り立っている。それが五臓六腑に影響をおよぼしc病気となるのだ。これが原則だがc呪文は病気に応じcいろいろある。まあcわたしのやっているのを見ていればcそのうち身に

  つくだろう」

  「しかしc手当てのかいなく患者が死んでしまった時のことを考えるとc心配でなりません」

  「それを気にすることはない。いまだかつてc病人が死んだ場合c治療法が悪かったせいだとcおとがめを受けた医師はいないのだ。将軍が死んだってc医師に責任はおよんでこない。なにかのたたりで発病した時などcその原因はつかみにくくc助けようがない。その責任まで押

  しつけられてはc医師のなりてがない」

  「その点は気を楽にしていいわけですね」

  「まあcその点だけだな。あとはcあんまりいいことはない。禄高は低いしc普通の武士にくらべてc軽く見られている。しかしcこれが祖先からわが家が代々やってきたつとめなのだ。この仕事をはげまなければならない」

  藩医はcいまでいう軍医。上からの命令の「だれそれを診察してやれ」との指示に従ってcそれをおこなう。もちろん無料。もっともcそのために使用する薬草類の費用としてc禄高のほかにいくらかをもらっているのだ。このたぐいの患者の数はcそう多いものではなかった。

  大部分は非公式の患者。上役に申し出る手続きをうるさがりc藩士が直接に宗白の家をたずねてきてc実費を払って手当てしてもらう。

  「手にとげをさしてしまった。上役に言うとc気のゆるみだとかなんとかcあれこれ意見される。なんとかなおしてくれ」

  「いいですとも。薬草の汁をつけておきましょう。その上からcこのおふだをはる。これはですな。江戸のとげ抜き地蔵からとりよせたc非常にききめのあるものです」

  「これはありがたい」

  江戸からとりよせたのは一枚だけでcそれに似せて版木を作りc複製をたくさん印刷して用意してあるのだ。複製でもいくらかきくだろうと宗白は信じていたしcまたcたしかに効果はあるようだった。

  藩士ばかりでなくcその家族についての相談もうける。

  「じつはc五歳になるむすこのことだがcいまだに寝小便をするので困っている。武士の子としてみっともない。きびしくしかるのだがcいっこうになおらない」

  「それはそれはcさぞお悩みでしょう。しかしcどなるだけではだめです。それなりの手当てをしなければ。まずc寝小便を半紙にしませcそれを黒焼きにしc甘草を加えcそれに湯をかけて飲ませるのです。はいcこれが甘草。それと同時にcこの字を寝る前にで腹に書くこと

  です」

  宗白は紙に書いて渡す。

  「妙な字でござるな。なんと読むのか」

  「読み方などありません。これはcまじないの記号なのです」

  べつな藩士はcこんな相談をもちこむ。

  「このたび海上警備の役をおおせつかったがcわたしは船酔いするたちでcうまくつとまるかどうか心配でならない」

  「それはですなcへその穴に塩を入れcその上にこの紙をはりつけなさい。それで大丈夫です。よほどの大波の時にはcヘイコクコウボウと呪文をとなえなさい」

  「お教えいただきcかたじけない」

  そのほかc子供の虫封じとかc乳の出の少ない女性とかcそれぞれ病気に応じた治療法を教えてやる。いずれもcまじないと薬草との併用だった。

  宗白は性格がまじめでありcそれが巧まざる演出となっていた。親切と自信にあふれた口調。患者たちはみなcそれなりに満足していた。けっこうなおったしcなおらない場合もcそれは宗白が悪いのでなくc自分の病気のほうが悪いのだろうと思う。

  時には急病で呼ばれることもある。

  「宗白どの。すぐ来てくれぬか。隠居している父のようすがおかしい」

  「食あたりか」

  「いやcそうではないようだ。胸が苦しいと言っている。早くたのむ」

  「よろしい。参りましょう。おいc宗之助c薬箱を持ってついてきなさい」

  宗白はかけつけc横たわっている病人を見てc首をかしげながら言う。

  「いささか手おくれのようだがcできるだけの手当てをしましょう。宗之助cこれとこれの薬草を調合しなさい」

  それを飲ませてからc患者の耳もとで大声で告げる。

  「しっかりしてcこの呪文をおぼえなさい。オンハラダハントメイウン。如にょ意い輪りん観音のまじないでc悪事災難を防ぎます。しかしc声に出すことなくc口のなかでとなえるのですよ」

  と指示を与えて帰宅する。つぎの日c薬石効なく死亡したとのしらせがあるがc宗白はあわてない。

  「ずいぶんとご高齢でしたからな。気力がつづかずc呪文をとなえつづけられなかったのでしょう。お気の毒に」

  「そうでしょうね。これも天寿でしょう。いたしかたありません。お手当てcありがとう存じました」

  遺族はお礼をおいて帰る。金は受取らなければならない。使用した薬草を補充しておかないとcたちまち品切れになってしまう。

  宗之助は父に質問する。

  「急病人の時の心得はなんでしょう」

  「食あたりかどうかをcまずみきわめる。それだったら薬草によってcはかせるか下痢させるかcなにしろ早く体外に出すことだ」

  「食あたりでなかったら」

  「むずかしい。正直なところc運を天にまかせる以外にない。そもそもだなc前もって相談を受けていればc薬草によって体調をととのえることができなくはない。しかしc急に飛びこまれたのはcどうしようもないのだ」

  「あの呪文cなぜ声に出してとなえてはいけないのです」

  「声に出していながらcみるみる悪化したのではc効果について怪しまれる。声に出していなければc口のなかでとなえるのをやめたから死んだのだろうとc遺族もあきらめてくれるのだ」

  「本当に呪文はきくのですか」

  「本にも書いてあるしcどの医師もやっていることだ。となえないよりはききめがあるはずだ」

  「そうかもしれませんね」

  「そのためc助かるかどうかをみきわめることがcなによりも先決だ。これは経験をつむとわかるようになってくる。それによってc力強くはげますかc本人をやすらかに死なせ遺族に悔いを残させないようにするかc方針がわかれるのだ。ここが医師の才能でありc存在価値だろ

  うな」

  こういうことをc宗白は無責任で言っているのではなかった。これが当時の医術。腎じん虚きょなる言葉がありc腎臓と性的なものの関連が常識となっていた。その腎臓がどこにあるのかさえc多くの医師は知らなかった。

  江戸城の将軍もc大奥の女性もcなにかからだに異常があるとcすぐに加か持じ祈き祷とうをおこなった。医師よりも神仏が優先。だからc寺社へ寄進する金額のほうがc医師への支出よりはるかに大きかった。

  これは地方の藩においても同じこと。寺社奉行となると大変な重職だがc医師はせいぜい百石ぐらいの格しかない。

  そもそもc人体がどうなっているのかcだれも知っていない。かりに知ってたとしてもc細菌性の病気への薬がなかった時代。すなわちc肺炎c赤痢c伝染病などcなおしようがない。天てん然ねん痘とうが流行すればc赤い色の布を身にまとって防ぐ以外に

  ない。肺病になればc黒ネコを飼いc背中に四角い紙をはりcその四すみにキュウをすえるという手当てを受ける以外にない。

  いかに全国最高級の将軍専属の医師でもcさらに的確な治療法を知っていたわけではないのだ。将軍が他の者にくらべ特に長寿をたもってもいない。なおらぬ病気にかかったらcそれが運命でありcだれもやむをえないとあきらめる。

  「文句なくきくという薬があるといいでしょうにね」

  宗之助が言うとc父の宗白は答える。

  「わたしもそう思うな。しかしcそんなものはほとんどない。みごとにきくのはc毒の薬草しかない」

  「そんなのがあるのですか」

  「毒殺用の毒などはcみなcてきめんにきく。人を殺すのは命を助けるよりcはるかに簡単だ。しかしcわたしが言いかけたのはcそのたぐいではない」

  「なんのことでしょう」

  「わたしがむかしc山の森のなかである薬草を発見した。そこのひきだしに入れてあるやつだ。これを飲ませるとcたちまち熱が出て頭痛がおこる。まあ種の毒草だ」

  「なおるのですか」

  「いまのは葉っぱのほうだがc根の部分をせんじて飲むとcそれがおさまる。まずcネズミに飲ませて調べcわしも少しずつ飲んでたしかめてみた」

  「ふしぎな作用ですね」

  「そこでだcそれならばとc発熱頭痛の病気にもcこの草の根の部分が解毒剤としてきくかなとやってみたがcまるでだめだ。皮肉なものだな。新しい薬の発見とはcかくのごとくむずかしい」

  宗之助が二十一歳になった時c父の宗白は隠居を願い出て許されc宗之助が家督をついだ。生活にたいした変化はない。髪をくわい頭にしc父のやっていたことを彼がつづけるだけのことだ。薬箱を運んだりc薬を調合したりする役はc下男がやった。

  なにかぱっとしたことをやってcみなに腕前を見せたいものだな。若い宗之助はcそう考えたがcこればかりはどうしようもない。

  しかしcある日cお城から急ぎの呼び出しがあった。

  「すぐにお出かけ下さい。城下で切りあいがあった。旅の他藩の武士とcわが家臣とがc酒を飲んだあげくお国じまんをはじめcたがいにゆずらず」

  「わかりました」

  宗之助は出かける。父の宗白もついてきてくれた。傷ついているのはc他藩の武士。民家のなかに運ばれc腕から血を流して横たわっている。

  いざとなると身ぶるいがしたがc宗之助はかねて習った通りをやった。傷にやきごてを当てc焼酎しょうちゅうをぶっかけcおふだをはりc布を巻きつけて血をとめた。麻酔薬などない時代。大変な痛みだろうがc手当てする宗之助には関係ない。

  そばで見ていた宗白はc終ってからうなずいて言う。

  「いいだろう。うめいたり血が流れたりですさまじいがc手足の傷ならcたいていなおる。胸や腹も浅い傷ならなおる。おふだのききめでc化膿しなければだがね」

  「おふだc焼酎cやきごてcどれがきくのでしょう」

  「まるでわからん。戦場での必要と体験からcこの方法ができあがったのだ」

  鎌倉時代には主従が義によって結ばれておりcだれも死をいとわなかった。しかしc戦国時代になるとcやとわれ武士が多くなりc傷をなおせる医者がいないとc部下が逃げてしまう。そのために外科がいくらか発達した。

  細菌の存在などcだれも知っていない。熱やアルコールに消毒作用があるなどc知らないでやっていたのだ。

  宗之助は父に言う。

  「しかしc江戸幕府ができてからcほとんど戦乱はない。進歩もとまったままですね。負傷者が続出すればcあれこれcこころみられるのに」

  「それ以上は言うな。不穏な言動だとおこられることになるぞ」

  その他藩の武士はc温泉で休養しcなんとか全快した。宗之助はいちおう仕事を片づけることができた形だった。しかしcこれが職務なのでcとくにほめられることもなかった。もっともc死んだとしてもc責任を問われるわけでもない。このへんを考えるとc自己の役割りがぼ

  やけc宗之助はちょっと面白くなかった。

  しばらくしてcまたお城から呼び出しがあった。出かけるとc上役がこう言う。

  「じつはc内密で相談がある。先日の刃傷にんじょう事件のことについてだが」

  「あれはなおったはずですが」

  「それがよかったのかどうかcわからなくなったのだ。あの武士c帰国してcここでひどい目にあったと報告したらしい。そこの領主からcわが藩に厳重な抗議があった」

  「はあ」

  「むこうは大藩cこっちは小藩c無理とわかっていても頭を下げざるをえない。ほっとくわけにいかずc切りつけたわが藩の者に切腹させてcことをおさめることにした」

  「ひどい話だ。それならc助けるのじゃなかった。しかしcわたしの責任じゃありませんよ。やつが勝手になおってしまったのです」

  「わかっておる。しかしc切腹を命ぜられた者cわが藩の無事のためでありcあとの家族の面倒はみると話してもcうけつけない。不平をこぼしている。このままだとcみぐるしい切腹にならぬとも限らぬ。他藩の使者の前でc恥をさらしかねない」

  「困りましたな」

  「なんとかならぬか。堂々と切腹する気になる薬草か呪文はないか」

  「医師としての仕事からはみ出ますがcやってみましょう」

  宗之助は酒を持って出かける。その家臣は刀を取りあげられc上役の家に閉じこめられていた。宗之助は酒をすすめた。

  「ご同情にたえません。こうと知ってたらc他藩のやつの手当てをしなければよかった」

  「わたしもcこんなことで切腹とはcくやしくてならぬ」

  よほど不満なのかcやけ酒のごとくcあっというまに飲んでしまった。

  「しかしcここはわが藩のためにc覚悟をきめるべきではないでしょうか。どっちにしろcあなたは助からないんですよ」

  「なんのことだ」

  「これは内密ですがcいまの酒に毒を入れておいた。一日たつとc頭が痛み熱が出てくる。しだいにひどくなりcそして終りです。いっそのことcはなばなしく腹を切ってc後世に語りつがれたほうがいいでしょう」

  「なんだとc卑怯な」

  「まあc落ち着いてc落ち着いて。ここのところをよくお考えに」

  宗之助は逃げ帰る。

  しかしc数日たってcその家臣がみごとに切腹したと聞かされた。発熱し頭痛がおこりcどうやら本当に毒を飲まされたらしいと知りcどうせ助からないのならとc思い切りがついたのだろう。内心c家老たちをあざ笑いたい気分だったかもしれない。微笑を浮べ立派な最期だっ

  たという。その家臣の家は形式の上で断絶となったがcむすこは新規召し抱えとして藩士となった。丸くおさまったといえる。

  宗之助はc父の発見した薬草のききめをみなおした。頭痛と発熱をひきおこす作用があるらしい。毒も使いようで役に立つぞ。

  そのうちcまたもそれを使う機会にめぐまれた。

  宗之助が城下を散歩しているとcみすぼらしい少年武士にであった。空腹らしい。めしを食わせて事情を聞くとc父のかたきを追ってここまで来たという。

  「それでcかたきをみつけたのか」

  「はい。このさきの旅館にとまってい

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