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正文 第9节

  しかし彼は戻っては来なかった。ある日僕は学校から戻ってみるとc彼の荷物は全部なくなっていた。部屋のドアの名札も外されてc僕のものだけになっていた。僕は寮長室に言って彼がいったいどうなったのか訊いてみた。

  「退寮した」と寮長は言った。「しばらくあの部屋はお前ひとりで暮せ」

  僕はいったいどういう事情なのかと質問してみたがc寮長は何も教えてくれなかった。他人には何も教えずに自分ひとりで物事を管理することに無上の喜びを感じるタイプの俗物なのだ。

  部屋の壁には氷山の写真がまだしばらく貼ってあったがcやがて僕はそれははがしてcかわりにジムモリソンとマイルスデイヴィスの写真を貼った。それで部屋は少し僕らしくなった。僕はアルバイトで貯めた金を使って小さなステレオプレーヤーを買った。そして夜になると一人で酒を飲みながら音楽を聴いた。ときどき突撃隊のことを思いだしたがcそれでもひとり暮らしというのはいいものだった。

  *

  月曜日の十時から「演劇史2」のエウリピデスについての講義がありcそれは十一時半に終わった。講義のあとで僕は大学から歩いて十分ばかりのところにある小さなレストランにいってオムレツとサラダを食べた。そのレストランはにぎやかな通りからは離れていたしc値段も学生向きの食堂よりは少し高ったがc静かで落ちつけたしcなかなか美味いオムレツを食べさせてくれた。無口な夫婦とアルバイトの女の子が三人で働いていた。僕は窓祭の席に一人で座って食事をしているとc四人づれの学生が店に入ってきた。男が二人と女が二人でcみんなこざっぱりとした服装をしていた。彼らは入口近くのテーブルに座ってメニューを眺めcしばらくいろいろと検討していたがcやがて一人が注文をまとめcアルバイトの女の子がにそれを伝えた。

  そのうちに僕は女の子の一人が僕の方をちらちらと見ているのに気がついた。ひどく髪の短い女の子でc濃いサングラスをかけc白いコットンのミニのワンピースを着ていた。彼女の顔には見覚えがなかったので僕がそのまま食事を続けているとcそのうちに彼女はすっと立ち上がって僕の方にやってきた。そしてテーブルの端に片手をついて僕の名前を呼んだ。

  「ワタナベ君cでしょ」

  僕は顔を上げてもう一度相手の顔をよく見た。しかし何度見ても見覚えはなかった。彼女はとても目立つの女の子だったしcどこかであっていたらすぐ思い出せるはずだった。それに僕の名前を知っている人間はそれほどたくさんこの大学にいるわけではない。

  「ちょっと座ってもいいかしらそれとも誰かくるのcここ」

  僕はよくわからないままに首を振った。「誰も来ないよ。どうぞ」

  彼女はゴトゴトと音を立てて椅子を引きc僕の向かいに座ってサングラスの奥から僕をじっと眺めcそれから僕の皿に視線を移した。

  「おいしそうねcそれ」

  「美味しいよ。マッシュルームオムレツとグリーンビースのサラダ」

  「ふむ」と彼女は言った。「今度はそれにするわ。今日はもう別のを頼んじゃったから」

  「何を頼んだの」

  「マカロニグラタン」

  「マカロニグラタンもわるくない」と僕はいった。「ところで君とどこであったんだっけなどうしても思い出せないんだけど」

  「エウリピデス」と彼女は簡潔に言った。「エレクトラ。いいえc神様だって不幸なものの言うことには耳を貸そうとはなさらないのです。さっき授業が終わったばかりでしょう」

  僕はまじと彼女の顔をみた。彼女はサングラスを外した。それでやっと僕は思い出した。「演劇史2」のクラスで見かけたことのある一年生の女の子だった。ただあまりにもがらりととヘアスタイルが変わってしまったのでc誰なのかわからなかったのだ。

  「だって君c夏休み前まではここまで髪あったろう」と僕は肩から十センチくらい下のところを手で示した。

  「そう。夏にパーマをかけたのよ。ところがぞっとするようなひどい代物でねcこれが。一度は真剣に死のようと思ったくらいよ。本当にひどかったのよ。ワカメがあたまにからみついた水死体みたいに見えるの。でも死ぬくらいならと思ってやけっぱちで坊主頭にしちゃったの。涼しいことは涼しいわよcこれ」と彼女はいってc長さ四センチか五センチの髪を手のひらでさらさらと撫でた。そして僕に向かってにっこりと微笑んた。

  「でも全然悪くないよcそれ」と僕はオムレツのつづきを食べながら言った。「ちょっと横を向いてみてくれないかな」

  彼女は横を向いてc五秒ぐらいそのままじっとしていた。

  「うんcとても良く似合ってると思うな。きっと頭のかたちが良いんだね。耳もきれいにみえるし」と僕はいった。

  「そうなのよ。私もそう思うのよ。坊主にしてみてねcうんcこれも悪くないじゃないかって思ったわけ。でも男の人って誰もそんなこと行ってくれやしない。小学生みたいだとかc強制収容所だとかcそんなことばかり言うのよ。ねえcどうして男の人って髪の長い女の子がそんなに好きなのそんなのまるでファシストじゃない。下がらないわよ。どうして男の人って髪の長い女の子が上品で心やさしくて女らしいと思うのかしら私なんかねc髪の長い下品な女の子二百五十人くらい知ってるわよ。本当よ。」

  「僕は今のほうがすきだよ」と僕は言った。そしてそれは嘘ではなかった。髪の長かったときの彼女はc僕の覚えている限りではまあごく普通のかわいい女の子だった。でもいま僕の前に座っている彼女はまるで春を迎えて世界に飛び出したばかりの小動物のように瑞々しい生命感を体中からほとばしらせていた。その瞳はまるでした生命体のように楽し気に動きまわりc笑ったり怒ったりあきれたりあきらめたりしていた。僕はこんな生き生きとした表情を目にしたのは久しぶりだったのでcしばらく感心して彼女の顔を眺めていた。

  「本当にそう思う」

  僕はサラダを食べながら肯いた。

  彼女はもう一度濃いサングラスをかけcその奥から僕の顔を見た。

  「ねえcあなた嘘つく人じゃないわよね」

  「まあ出来ることなら正直な人間でありたいとは思っているけどね。」と僕は言った。

  「どうしてそんな濃いサングラスかけてるの」と僕は訊いてみた。

  「急に毛が短くなるとものすごく無防備な気がするのよ。まるで裸で人ごみの中に放り出されちゃったみたいでねc全然落ちつかないの。だからサングラスかけるわけ。」

  「なるほど」と僕は言った。そしてオムレツの残りを食べた。彼女は僕がそれを食べてしまうのを興味深そうな目でじっと見ていた。

  「あっちの席に戻らなくていいの」と僕は彼女の連れの三人の方を指さして言った。

  「いいのよcべつに。料理が来たらもどるから。なんてことないわよ。でもここにいると食事の邪魔かしら」

  「邪魔も何もcもう食べ終わっちゃったよ」と僕は言った。そして彼女が自分のテーブルに戻る気配がないので食後のコーヒーを注文した。奥さんが皿を下げてcそのかわりに砂糖とクリームを置いていった。

  「ねえcどうして今日授業で出席取ったとき返事しなかったのワタナベってあなたの名前でしょうワタナベトオルって」

  「そうだよ」

  「じゃどうして返事しなかったの」

  「今日はあまり返事したくなかったんだ」

  彼女はもう一度サングラスを外してテーブルの上に置きcまるで珍しい動物の入っている檻でものぞきこむような目付きで僕をじっと眺めた。「今日はあまり返事したくなかったんだ」と彼女はくりかえした。「ねえcあなたってなんだかハンフリーボガートみたいなしゃべりかたするのね。クールでタフで」

  「まさか。僕はごく普通の人間だよ。そのへんのどこにでもいる」

  奥さんがコーヒーを持ってきて僕の前に置いた。僕は砂糖もクリームも入れずにそれをそっとすすった。

  「ほらねcやっぱり砂糖もクリームもいれないでしょ」

  「ただ単に甘いものが好きじゃないだけだよ」と僕は我慢強く説明した。「君はなんか誤解しているんじゃないかな」

  「どうしてそんなに日焼けしてるの」

  「二週間くらいずっと歩いて旅行してたんだよ。あちこち。リュックと寝袋をかついで。だから日焼けしたんだ」

  「どんなところ」

  「金沢から能登半島をぐるっとまわってねc新潟まで行った」

  「一人で」

  「そうだよ」と僕は言った。「ところどころで道づれができるってことはあるけれどね」

  「ロマンスは生まれたりするのかしら旅先でふと女の子としりあったりして」

  「ロマンス」と僕はびっくりして言った。「あのねcやはり君は何か思いちがいをしていると思うね。寝袋かついで髭ぼうぼうで歩きまわっている人間がいったいどこでどうやってロマンスなんてものにめぐりあえるんだよ」

  「いつもそんな風に一人で旅行するの」

  「そうだね」

  「孤独が好きなの」と彼女は頬杖をついて言った。「一人で旅行し人でごはんを食べてc授業のときはひとりだけぽつんと離れて座っているのが好きなの」

  「孤独が好きな人間なんていないさ。無理に友だちを作らないだけだよ。そんなことしたってがっかりするだけだもの」と僕は言った。

  彼女はサングラスのつるを口にくわえcもそもそした声で「孤独が好きな人間なんていない。失望するのが嫌なだけだ」と言った。「もしあなたが自叙伝書くことになったらその時は科白使えるわよ」

  「ありがとう」と僕は言った。

  「緑色は好き」

  「どうして」

  「緑色のポロシャツをあなたが着てるからよ。だから緑色はすきなのかって訊いている」

  「とくに好きなわけじゃない。なんだっていいんだよ」

  「とくに好きなわけじゃない。なんだっていいんだよ」と彼女はまたくりかえした。「私cあなたのしゃべり方すごく好きよ。きれいに壁土を塗ってるみたいで。これまでにそう言われたことあるc他の人から」

  ないcと僕は答えた。

  「私ねcミドリっていう名前なの。それなのに全然緑色が似合わないの。変でしょ。そんなのひどいと思わないまるで呪われた人生じゃないcこれじゃ。ねえc私のお姉さん桃子っていうのよ。おかしくない」

  「それでお姉さんはピンク似合う」

  「それがものすごくよく似合うの。ピンクを着るために生まれてきたような人ね。ふんcまったく不公平なんだから。」

  彼女のテーブルに料理が運ばれcマドラスチェックの上着を着た男が「おーいcミドリc飯だぞお」と呼んだ。彼女はそちらに向かってcわかったcというように手をあげた。

  「ねえcワタナベ君cあなた講義のノートとってる演劇史2の」

  「とってるよ」と僕は言った。

  「悪いんだけど貸してもらえないかしら」私二回休んじゃってるのよ。あのクラスに私c知ってる人いないし」

  「もちろんcいいよ」僕は鞄からノートを出して何か余計なものが書かれていないことをたしかめてから緑に渡した。

  「ありがとう。ねえcワタナベ君cあさって学校に来る」

  「来るよ」

  「じゃあ十二時にここに来ないノート返してお昼ごちそうするから。別にひとりでごはん食べないと消化不良起こすとかcそういうじゃないでしょう」

  「まさか」と僕は言った。「でもお礼なんていらないよ。ノート見せるくらいで」

  「いいのよ。私cお礼するの好きなの。ねえc大丈夫手帳に書いとかなくて忘れない」

  「忘れないよ。あさっての十二時に君とここで合う」

  「向うの方から「おーいcミドリc早くこないと冷めちゃうぞ」という声が聞こえた。

  「ねえc昔からそういうしゃべり方してたの」と緑はその声を無視して言った。

  「そうだと思うよ。あまり意識したことないけど」と僕は答えた。しゃべり方がかわっているなんて言われたのは本当にそれがはじめてだったのだ。

  彼女は少し何か考えていたがcやがてにっこりと笑って席を立ちc自分のテーブルに戻っていった。僕がそのテーブルのそばを通りすぎたとき緑は僕に向かって手をあげた。他の三人はちらっと僕の顔を見ただけだった。

  水曜日の十二時になっても緑はそのレストランに姿を見せなっかた。僕は彼女がくるまでビールを飲んで待っているつもりだったのだがcそれでもまだ緑は姿を見せなかった。勘定を払いc外に出て店の向かい側にある小さな神社の石段に座ってビールの酔いをさましながら一時まで彼女を待ったがcそれでも駄目だった。僕はあきらめて大学に戻りc図書館で本を読んだ。そして二時からドイツ語の授業に出た。

  講義が終わるとc僕は学生課にいって講義の登録簿を調べc「演劇史2」のクラスに彼女の名前を見つけた。緑という名前の学生は小林緑ひとりしかいなかった。次にカード式になっている学生名薄をくって六九年度入学生の中から「小林緑」を探し出しc住所と電話番号をメモした。住所は豊島区でc家は自宅だった。僕は電話ボックスに入ってその番号をまわした。

  「もしもしc小林書店です」と男の声が言った。小林書店

  「申しわけありませんがc緑さんはいらっしゃいますか」と僕は訊いた。

  「いやc緑は今いませんねえ」と相手は言った。

  「大学に行かれたんでしょうか」

  「うんcえーとc病院の方じゃないかなあ。おたくの名前は」

  僕は名前は言わずc礼だけ言って電話を切った。病院彼女は怪我をするあるいは病気にかかるかして病院に行ったのだろうかしかし男の声からそういう種類の非日常的な緊迫感はまったく感じとれなかった。cうんcえーとc病院の方じゃないかなあそれはまるで病院が生活の一部であるといわんばかりの口ぶりであった。魚屋に魚を買いに行ったよとかcその程度の軽い言い方だった。僕はそれについて少し考えをめぐらせてみたがc面倒くさくなったので考えるのをやめて寮に戻りcベッドに寝転んで永沢さんに借りていたジョセフコンラッドの「ロードジム」の残りを読んでしまった。そして彼のところにそれを返しに行った。

  永沢さんは食事に行くところだったのでc僕も一緒に食堂に行って夕食を食べた。

  外務省の試験はどうだったんですかと僕は訊いてみた。外務省の上級試験の第二次が八月にあったのだ。

  「普通だよ」と永沢さんは何でもなさそうに答えた。「あんなの普通にやってりゃ通るんだよ。集団討論だとか面

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