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正文 第35节

  彼はそういう人じゃないわよ。自分のものをとてもきちんと大事にする人よ。私わかるもの。だから女の子を紹介しようとしたのよ」

  「でも俺とワタナベで一度女をとりかえっこしたことあるよc前に。なあcそうだよな」永沢さんは何でもないという顔をしてウィスキーのグラスをあけcおわかりを注文した。

  ハツミさんはフォークとナイフを下に置きcナプキンでそっと口を拭った。そして僕の顔を見た。「ワタナベ君cあなた本当にそんなことしたの」

  どう答えていいのかわからなかったのでc僕は黙っていた。

  「ちゃんと話せよ。かまわないよ」と永沢さんが言った。まずいことになってきたと僕は思った。時々酒が入ると永沢さんは意地がわるくなることがあるのだ。そして今夜の彼の意地のわるさは僕に向けられたものではなくcハツミさんに向けられたものだった。それがわかっていたものでc僕としても余計に居心地がわるかった。

  「その話聞きたいわ。すごく面白そうじゃない」とハツミさんが僕に言った。

  「酔払ってたんです」と僕は言った。

  「いいのよcべつに。責めてるわけじゃないんだから。ただその話を聞かせてほしいだけなの」

  「渋谷のバーで永沢さんと二人で飲んでいてc二人連れの女の子と仲良くなったんです。どこかの短大の女の子でc向うも結構出来上っていてcそれでまあ結局そのへんのホテルに入って寝たんです。僕と永沢さんとで隣りどうしの部屋をとって。そうしたら夜中に永沢さんが僕の部屋をノックしてcおいワタナベc女の子とりかえようぜって言うからc僕が永沢さんの方に行ってc永沢さんが僕の方に来たんです」

  「その女の子たちは怒らなかったの」

  「その子たちも酔ってたしcそれにどっちだってよかったんです。結局その子たちとしても」

  「そうするにはそうするだけの理由があったんだよ」と永沢さんが言った。

  「どんな理由」

  「その二人組の女の子だけどcちょっと差がありすぎたんだよ。一人の子はきれいだったんだけどcもう一人がひどくってさcそういうの不公平だと思ったんだ。つまり俺が美人の方をとっちゃったからさcワタナベにわるいじゃないか。だから交換したんだよ。そうだよなcワタナベ」

  「まあcそうですね」と僕は言った。しかし本当のことを言えばc僕はその美人じゃない子の方をけっこう気に入っていたのだ。話していて面白かったしc性格もいい子だった。僕と彼女がセックスのあとベッドの中でわりに楽しく話をしているとc永沢さんが来てとりかえっこしようぜと言ったのだ。僕がその子にいいかなと訊くとcまあいいわよcあなたたちそうしたいんならcと彼女は言った。彼女はたぶん僕がその美人の子の方とやりたがっていると思ったのだろう。

  「楽しかった」とハツミさんが僕に訊いた。

  「交換のことですか」

  「そんな何やかやが」

  「べつにとくに楽しくはないです」と僕は言った。「ただやるだけです。そんな風に女の子と寝たってとくに何か楽しいことがあるわけじゃないです」

  「じゃあ何故そんなことするの」

  「俺が誘うからだよ」と永沢さんが言った。

  「私cワタナベ君に質問してるのよ」とハツミさんはきっぱりと言った。「どうしてそんなことするの」

  「ときどきすごく女の子と寝たくなるんです」と僕は言った。

  「好きな人がいるのならcその人となんとかするわけにはいかないの」とハツミさんは少し考えてから言った。

  「複雑な事情があるんです」

  ハツミさんはため息をついた。

  そこでドアが開いて料理が運ばれてきた。永沢さんの前には鴨のローストが運ばれc僕とハツミさんの前には鱸の皿が置かれた。皿には温野菜が盛られcソースがかけられた。そして給仕人が引き下がりc我々はまた三人きりになった。永沢さんは鴨をナイフで切ってうまそうに食べcウィスキーを飲んだ。

  僕はホウレン草を食べてみた。ハツミさんは料理には手をつけなかった。

  「あのねcワタナベ君cどんな事情があるかは知らないけれどcそういう種類のことはあなたには向いてないしcふさわしくないと思うんだけれどcどうかしら」とハツミさんは言った。彼女はテーブルの上に手を置いてcじっと僕の顔を見ていた。

  「そうですね」と僕は言った。「自分でもときどきそう思います」

  「じゃあcどうしてやめないの」

  「ときどき温もりが欲しくなるんです」と僕は正直に言った。「そういう肌のぬくもりのようなものがないとcときどきたまらなく淋しくなるんです」

  「要約するとこういうことだと思うんだ」永沢さんが口をはさんだ。「ワタナベには好きな女の子がいるんだけれどある事情があってやれない。だからセックスはセックスと割り切って他で処理するわけだよ。それでかまわないじゃないか。話としてはまともだよ。部屋にこもってずっとマスターベーションやってるわけにもいかないだろう」

  「でも彼女のことが本当に好きなら我慢できるんじゃないかしらcワタナベ君」

  「そうかもしれないですね」と言って僕はクリームソースのかかった鱸の身を口に運んだ。

  「君には男のというものが理解できないんだ」と永沢さんがハツミさんに言った。「たとえば俺は君と三年つきあっていてcしかもそのあいだにけっこう他の女と寝てきた。でも俺はその女たちのことなんて何も覚えてないよ。名前も知らないc顔も覚えない。誰とも一度しか寝ない。会ってcやってc別れる。それだけよ。それのどこがいけない」

  「私が我慢できないのはあなたのそういう傲慢さなのよ」とハツミさんは静かに言った。「他の女の人と寝る寝ないの問題じゃないの。私これまであなたの女遊びのことで真剣に怒ったこと一度もないでしょう」

  「あんなの女遊びとも言えないよ。ただのゲームだ。誰も傷つかない」と永沢さんは言った。

  「私は傷ついてる」とハツミさん言った。「どうして私だけじゃ足りないの」

  永沢さんはしばらく黙ってウィスキーのグラスを振っていた。「足りないわけじゃない。それはまったく別のフェイスの話なんだ。俺の中には何かしらそういうものを求める渇きのようなものがあるんだよ。そしてそれがもし君を傷つけたとしたら申しわけないと思う。決して君一人で足りないとかそういうんじゃないんだよ。でも俺はその渇きのもとでしか生きていけない男だしcそれが俺なんだ。仕方ないじゃないか」

  ハツミさんはやっとナイフとフォークを手にとって鱸を食べはじめた。「でもあなたは少なくともワタナベ君をひきずりこむべきじゃないわ」

  「俺とワタナベには似ているところがあるんだよ」と永沢さんは言った。「ワタナベも俺と同じように本質的には自分のことにしか興味が持てない人間なんだよ。傲慢か傲慢じゃないかの差こそあれね。自分が何を考えc自分が何を感じc自分がどう行動するかcそういうことにしか興味が持てないんだよ。だから自分と他人をきりはなしてものを考えることができる。俺がワタナベを好きなのはそういうところだよ。ただこの男の場合自分でそれがまだきちんと認識されていないものだからc迷ったり傷ついたりするんだ」

  「迷ったり傷ついたりしない人間がどこにいるのよ」とハツミさんは言った。「それともあなたは迷ったり傷ついたりしたことないって言うの」

  「もちろん俺だって迷うし傷つく。ただそれは訓練によって軽減することが可能なんだよ。鼠だって電気ショックを与えれば傷つくことの少ない道を選ぶようになる」

  「でも鼠は恋をしないわ」

  「鼠は恋をしない」と永沢さんはそうくりかえしてから僕の方を見た。「素敵だね。バックグランドミュージックがほしいね。オーケストラにハーブが二台入って――」

  「冗談にしないでよ。私c真剣なのよ」

  「今は食事をしてるんだよ」と永沢さんは言った。「それにワタナベもいる。真剣に話をするのは別の機会にした方が礼儀にかなっていると思うね」

  「席を外しましょうか」と僕は言った。

  「ここにいてちょうだいよ。その方がいい」とハツミさんが言った。

  「せっかく来たんだからデザートも食べていけば」と永沢さんが言った。

  「僕はべつにかまいませんけど」

  それからしばらく我々は黙って食事をつづけた。僕は鱸をきれいに食べcハツミさんは半分残した。永沢さんはとっくに鴨を食べ終えてcまたウィスキーを飲みつづけていた。

  「鱸cけっこううまかったですよ」と僕は言ってみたが誰も返事をしなかった。まるで深い竪穴に小石を投げ込んだみたいだった。

  皿がさげられてcレモンのシャーベットとエスプレッソコーヒーが運んできた。永沢さんはどちらにもちょっと手をつけただけでcすぐに煙草を吸った。ハツミさんはレモンのシャーベットにはまったく手をつけなかった。やれやれと思いながら僕はシャーベットをたいらげcコーヒーを飲んだ。ハツミさんはテーブルの上に揃えておいた自分の両手を眺めていた。ハツミさんの身につけた全てのものと同じようにcその両手はとてもシックで上品で高価そうだった。僕は直子とレイコさんのことを考えていた。彼女たちは今頃何をしているんだろう直子はソファーに寝転んで本を読みcレイコさんはギターでノルウェイの森を弾いているのかもしれないなと僕は思った。僕は彼女たち二人のいるあの小さな部屋に戻りたいという激しい想いに駆けられた。俺はいったいここで何をしているのだ

  「俺とワタナベの似ているところはねc自分のことを他人に理解してほしいと思っていないところなんだ」と永沢さんが言った。「そこが他の連中と違っているところなんだ。他の奴らはみんな自分のことをまわりの人間にわかってほしいと思ってあくせくしてる。でも俺はそうじゃないしcワタナベもそうじゃない。理解してもらわなくったってかまわないと思っているのさ。自分は自分でc他人は他人だって」

  「そうなの」とハツミさんが僕に訊いた。

  「まさか」と僕は言った。「僕はそれほど強い人間じゃありませんよ。誰にも理解されなくていいと思っているわけじゃない。理解しあいたいと思う相手だっています。ただそれ以外の人々にはある程度理解されなくてもcまあこれは仕方ないだろうと思っているだけです。あきらめてるんです。だから永沢さんの言うように理解されなくたってかまわないと思っているわけじゃありません」

  「俺の言ってるのも殆んど同じ意味だよ」と永沢さんはコーヒースプーンを手にとって言った。「本当に同じことなんだよ。遅いめの朝飯と早いめの昼飯の違いくらいしかないんだ。食べるものも同じでc食べる時間も同じでcただ呼び方がちがうんだ」

  「永沢君cあなたは私にもべつに理解されなくったっていいと思ってるの」とハツミさんが訊いた。

  「君にはどうもよくわかってないようだけれどc人が誰かを理解するのはしかるべき時期がきたからであってcその誰かが相手に理解してほしいと望んだからではない」

  「じゃあ私が誰かにきちんと私を理解してほしいと望むのは間違ったことなのたとえばあなたに」

  「いやcべつに間違っていないよ」と永沢さんは答えた。「まともな人間はそれを恋と呼ぶ。もし君が俺を理解したいと思うのならね。俺のシステムは他の人間の生き方のシステムとはずいぶん違うんだよ」

  「でも私に恋してはいないのね」

  「だから君は僕のシステムを――」

  「システムなんてどうでもいいわよ」とハツミさんがどなった。彼女がどなったのを見たのはあとにも先にもこの一度きりだった。

  永沢さんがテーブルのわきのベルを押すと給仕人が勘定書を持ってやってきた。永沢さんはクレジットカードを出して彼に渡した。

  「悪かったなcワタナベc今日は」と彼は言った。「俺はハツミを送っていくからcお前一人であとやってくれよ」

  「いいですよc僕は。食事はうまかったし」と僕は言ったがcそれについては誰も何も言わなかった。

  給仕人がカードを持ってきてc永沢さんは金額をたしかめてボールペンでサインをした。そして我々は席を立って店の外に出た。永沢さんが道路に出てタクシーを停めるようとしたがcハツミさんがそれを止めた。

  「ありがとうcでも今日はもうこれ以上あなたと一緒にいたくないの。だから送ってくれないでいいわよ。ごちそさま」

  「お好きに」と永沢さんは言った。

  「ワタナベ君に送ってもらうわ」とハツミさんは言った。

  「お好きに」と永沢さんは言った。「でもワタナベだって殆んど同じだよc俺と。親切でやさしい男だけどc心の底から誰かを愛することはできない。いつもどこか覚めていてcそしてただ乾きがあるだけなんだ。俺にはそれがわかるんだ」

  僕はタクシーを停めてハツミさんを先に乗せcまあとにかく送りますよと永沢さんに言った。「悪いな」と彼は僕に謝ったがc頭の中ではもう全然別のことを考えはじめているように見えた。

  「どこに行きますか恵比寿に戻りますか」と僕はハツミさんに訊いた。彼女のアパートは恵比寿にあったからだ。ハツミさんは首を横に振った。

  「じゃあcそこかで一杯飲みますか」

  「うん」と彼女は肯いた。

  「渋谷」と僕は運転手に言った。

  ハツミさんは腕組みをして目をつぶりcタクシーの座席によりかかっていた。金の小さなイヤリングが車のゆれにあわせてときどききらりと光った。彼女のミッドナイトブルーのワンピースはまるでタクシーの片隅の闇にあわせてあつらえたように見えた。淡い色あいで塗られた彼女のかたちの良い唇がまるで一人言を言いかけてやめたみたいに時折ぴくりと動いた。そんな姿を見ていると永沢さんがどうして彼女を特別な相手として選んだのかわかるような気がした。ハツミさんより美しい女はいくらでもいるだろうcそして永沢さんならそういう女をいくらでも手に入ることができただろう。しかしハツミさんという女性の中には何かしら人の心を強く揺さぶるものがあった。そしてそれは決して彼女が強い力を出して相手を揺さぶるというのではない。彼女の発する力はささやかなものなのだがcそれが相手の心の共震を呼ぶのだ。タクシーが渋谷に着くまで僕はずっと彼女を眺めc彼女が僕の心の中に引き起こすこの感情の震えはいったい何なんだろうと考えつづけていた。しかしそれが何であるのかはとうとう最後までわからなかった。

  僕はそれが何であるかに思いあたったのは十二年か十三年あとのことだった。僕はある画家をインタヴェーするためにニューメキシコ州サンタフェの町に来ていてc夕方近所のピツァハウスに入ってビールを飲みピツァをかじりながら奇蹟のように美しい夕陽を眺めていた。世界中のすべてが赤く染まっていた。僕の手から皿からテーブルからc目につくもの何から何までが赤く染まっていた。まるで特殊な果汁を頭から浴びたような鮮やかな赤だった。そんな圧倒的な夕暮の中でc僕は急にハツミさんのことを思いだした。そしてそのとき彼女がもたらした心の震えがいったい何であったかを理解した。それは充た

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