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正文 第30节

  ます。しかしc相手は強い武士。わたしには討てそうになくc困っているのです」

  「なるほど。しかしc安心しなさい。わたしは当藩の医師。かたきを討てる薬をあげよう。これを飲んで三日目にやりなさい。かならず勝てる」

  そしてcにがいだけのcただの薬を少年武士に飲ませた。一方cかたきのとまっている旅館に行きc女中にたのんでc例の毒草を飲ませる。翌日c近くをうろついているとcかたきの武士から声をかけられる。

  「医師とおみうけする。みていただきたい」

  宗之助cあれこれもっともらしく診断しcそっと言う。

  「これはcわたしの手におえない。のろいです。あなたに殺された人の霊がとりついている。頭が痛くc熱っぽいでしょう。だんだんひどくなりcしまいには狂い死にをする。なにか原因に心当りは」

  「ないこともない。同僚の武士をやみ討ちにしc逃げまわっているのだ。それかもしれぬ。でcなおらぬというのか」

  「むずかしいでしょうな。これはcあの世に行ってもなおらずc成仏できません。霊魂ののろいが消えればcあなたの死後の魂は救われるでしょうが」

  おどかして帰るとcころあいをみはからってc少年武士が乗りこむ。

  「やいc父のかたきc尋常に勝負しろ」

  かたきのほうcこうなるとcここで討たれてcせめて死後の成仏だけはしたいという気になっている。かえり討ちにしてもいいがc死後まで狂い死にがつづいてはかなわん。勝敗はあきらか。

  少年の感激といったらなかった。宗之助にお礼を言ってc故郷へと帰っていった。その帰途cほうぼうでこの話をしたにちがいない。

  何カ月かするとc宗之助の家に武士の訪問客がありcこんなことをたのむ。

  「うわさによるとcこちらに秘伝のかたきうち薬があるとか。大変なききめだそうで。ぜひcおゆずりいただきたい。かたきを討たぬと帰参できない身の上なのです」

  「ははあcあのにがい薬のことですな。よろしいcおゆずりしましょう。かたきにめぐりあった時にcお飲み下さい。それから三日後にcたちあうのです。代金はけっこうですよ。みごと本懐をとげられたあとでcおこころざしだけお送り下さい」

  「かたじけない」

  相手は大喜び。にがいだけの薬だがcあるいはcいくらか気力を高める役に立つかもしれない。立たなかったとしてもcあとで文句をつけられる心配はない。

  宗之助はcだんだん要領を身につけてきた。毒とハサミは使いようだ。

  しかしc平凡な毎日。家臣の家族たちのcせきがとまらぬとかc犬にかまれたとかの手当てをしcまじないをくりかえす。実費はもらう。しかしcそう大金を請求するわけにいかずc金額はしれていた。

  もっと派手なことをやりたいものだ。宗之助は武芸をやらずc内心のもやもやの発散することがなくcそれは妙な空想となる。

  そもそもc医師のありがたみなるものをcみなが知らないのがよくない。ありがたみを示さなければならない。戦乱の世となればいいのだがcそれは期待できない。医師への信用と需要とをかきたてるcなにかいい方法はないものか。

  考えてたどりついたのはc例の毒の薬草。

  宗之助が目をつけたのはc藩内の大波屋という商人。海運業をやっておりc金まわりは悪くなくc藩にも金を貸している。その見返りとしてc苗字帯刀を許されている。

  宗之助は茶店の主人にたのみcお茶にまぜて大波屋に飲ませることに成功した。あの人は病気のようだcこれを飲ませてあげなさいと言うことはc医師として不自然でない。

  二日ほどしc大波屋を訪れc薬草の注文を江戸へとりついでくれないかと言う。応対に出た番頭が言う。

  「じつはc主人が病気になりましてc苦しんでおります。みていただけるとありがたいのですが」

  「いいですとも。こちらのご主人はc苗字帯刀を許されている。家臣と同格です。手当てしてさしあげましょう」

  部屋に通りc横たわっている主人に言う。

  「ははあc頭が痛く熱っぽいのでしょう」

  「はい。よくおわかりですね。驚きました。なおるものでしょうか」

  「金まわりがいいとc木火土金水の五行のつりあいが狂いcからだにそれがあらわれるのです。火cすなわち熱が出る。むずかしいですがcできるだけのことをやってあげましょう。土の精の産物である薬草をc水にときc木製の容器で飲まねばならぬ」

  「ぜひcお助け下さい。お礼はいくらでもお払いします。むずかしい理屈よりc早く手当てを」

  「わかっています」

  宗之助は父から教わった例の薬草の根の部分をせんじcもっともらしく飲ませる。翌日c当然のことながらc症状は消える。

  あまりのあざやかさにc大波屋の主人は感嘆する。宗之助をまねいてc全快祝いのごちそうをした上c多額の金銭をさし出す。

  「これを受けとっていただきたい」

  「ずいぶんありますな。しかしcわたしはお城から禄をいただいておりc生活はなんとかなる。そこでですcじつはわたしにcひとつの計画がある。この金はcそれに使っていただきたい」

  「どんなご計画で」

  「お城にはわたしのほかにcあと二人の医師がいるだけ。わが藩に三名というわけです。しかしc家臣はまだいい。領民たちはc医師にかかることができないでいる。小さな診察所を作りcわたしがひまな時にはcそこで手当てしてあげようというのです」

  「それはご立派なことです」

  宗之助はc藩の上役に許可を求めた。これができればc殿さまへの尊敬も高まる。他藩に移ろうなどと考える領民もいなくなる。金は大波屋が出すのでc藩の出費はふえない。もちろんc家臣の手当てが優先でcそのひまな時を利用してやるのであると。

  その計画は許可になった。小さな建物が作られc江戸からとりよせた各種の薬草がそろいc使用人がひとりつけられcなんとか体裁がととのった。

  かくしてc領民たちははじめて医療の恩恵を受けられることとなった。これまでは町医者がいなかったのだしcかりにいたとしてもそれに金を払える余裕などなくcまじないのほうを医師より信用している者が大部分だった。なんという進歩。貧しさゆえの悲劇はなくなったのだ

  。

  もっともc金を湯水のごとく使える将軍だってcたいした治療を受けていたわけではない。この程度の医療ならc受けても受けなくても大差なくcうらやむことなどなにもないのだが。

  しかしcことは気分の問題。これはcすべてにいい結果をもたらした。領民たちはc信じられないような喜びよう。殿さまへの感謝も高まる。金を出した大波屋の人気もあがる。そしてcいうまでもないことだがc宗之助は神さまあつかいされた。依然として禄高は五十石だが。

  こういう仕事があるのはc退屈しているよりいいことだ。宗之助はひまがあるとc診察所へ出かけて仕事をした。領民たちはありがたがっておりcどんな手当てでも喜んでくれる。おふだ一枚と安い薬草をやればcだいたいなおる。やまいは気からなのだ。

  なおらなくてもc文句は出なかった。手当てを受けられたのだからとc感謝しながらあきらめてくれる。それをいいことにc宗之助は各種の薬草をこころみた。飲ませるとからだがぐったりしc飲用を中止するともとへもどる薬のあることを知った。煙にして吸わせるとおかしく

  なる薬の存在も知った。

  宗之助はc大波屋の娘を見そめた。主人を病気に仕上げc熱心に看病してなおしcそこにつけこんで申し出る。

  「娘さんを嫁にいただきたい」

  「そちらさえよろしければcどうぞ。なにしろ命の恩人なのですから」

  商人ではあるが苗字帯刀を許されていてc家臣の格だ。身分上の問題はなくc許可になりcその婚礼がおこなわれた。

  宗之助は経済的にゆとりができた。金のある商人たちからのc診察の依頼がふえたのだ。請求しなくてもcかなりのお礼を持ってくる。

  やがてc父の宗白が死んだ。海へ釣りに出てc舟がひっくりかえったためだ。葬式のあとc宗之助は襲名して宗白となった。これは代々の習慣なのだ。

  そのあと長男が出生した。宗太郎と名づけc注意して育てた。当時の幼児死亡率はきわめて高くc注意も意味ないわけだがc宗太郎は無事に成長した。幸運のおかげというべきだろう。

  宗白cすなわち襲名した宗之助はcまじめな父がいなくなってcさらに欲が出てきた。これだけ才能があるのにc下級武士相手の医師とは。殿や家老を診察できる地位につきたいものだ。彼はその計画にとりかかった。

  しかしc殿に毒の薬草を飲ませるのはむずかしい。そばに毒見役がいてc殿の口に入るものを調べているからだ。

  宗白は薬草をとかしこんだロウソクを作った。外側を美しくいろどりc大波屋を通じ殿へ献上させた。

  殿は夕刻c机にむかって読書をすると聞いている。つまりc殿は灯のそばにありc側近の小姓ははなれている。薬草の煙を吸うのはc殿だけとなるはずだ。

  待ちかまえているとc城から呼び出しがあった。お側用人が言う。

  「じつはc殿がご病気だ。いまの医師の手当てではなおらぬ。知恵を貸してくれ」

  「しかしc診察をいたさぬとcなんとも申しあげられません。わたしはおめみえ以下c殿のおそばに出る資格がございません」

  「ではcその手続きをする」

  宗白は昇進しc禄高は百石となった。坊主頭となりc診察をする。責任重大だがcなおすのは簡単。きく解毒剤はわかっている。まず自分で飲んでみせc殿にすすめる。たちまち全快cお言葉をたまわる。

  「宗白cそちの腕はみごとだ。これからはcわしのそばにいてくれ」

  「しかしcいままでのかたの役を奪っては申し訳ありません。必要に応じてcお呼び下さるということで」

  「遠慮ぶかくて感心であるな。そのうちc医学についての講義を聞かせてくれ」

  「はい」

  数日後c宗白は講義をした。

  「そもそもc天地人と申すごとくc人間は天地のあいだにあってcその霊気の影響を受けている。人体はc空気が出入しc水が通過しc血液が循環している。空気は天に感応しc水は地に感応す。血液は当人の運勢にかかわっている。お脈をみるのはcそのためでございます。これ

  をととのえ健康にするためcまじないで天の霊気を助けc薬草で地の霊気をおぎなう。その微妙なるつりあいをきめるのがc医学なのでございます。これについてcご不審な点はございましょうか」

  「よくわからぬがc立派な説のようだな。ほめてとらすぞ」

  宗白は面目をほどこした。この信用をさらに確実なものとしなくてはならぬ。彼は昇進の御礼としてc霊験あらたかな線香なるものを献上した。そのなかの一本にc毒の薬草がしませてある。いつかはそれが使われるだろう。

  待っているとcまたも殿は発病。宗白が呼ばれc手ぎわのいい治療。ますます殿はごきげんがいい。そのうちcこんな相談を持ちかけられた。

  「なかなか世つぎがうまれぬ。わしのからだがいけないのであろうか」

  「殿はご健康です。しかしc子孫の問題となるとc天地陰陽c相性がからんで」

  「どうすればいいというのか」

  「新しいご側室を迎えられては」

  「だれか適当な女性がおるか」

  うまくいけばもうけものとc宗白は妻の妹を推薦した。

  「大波屋の娘などよろしいかと」

  「ふむ。そういうものか。ではcわしから家老に話してみよう」

  その件がきまった。世つぎの誕生を望むのはcどこの藩でも同じ。大名が正夫人をきめる時はc格式や幕府の許可で大変だがc側室だといとも簡単。

  宗白はcこんどは真剣に殿への薬を調合した。祈祷もおこなった。やがてcこれこそ偶然の幸運だろうがcその側室が懐妊しc男子の誕生となった。殿も大いに満足なさる。

  「宗白cそちのおかげであるぞ」

  「いえc殿のお力でありc神仏のお加護のおかげでございます。寺社への寄進をなさるとよろしいかと」

  「そうであったな」

  藩内の寺社がc少し不景気になっている。病気の領民たちがc宗白の診察所へ行ってしまうからだ。さいせんのあがりがへっている。このさいcその不満をやわらげておいたほうがいい。

  寄進がなされc寺社の関係者たちが宗白の意見と知ってcお礼に来た。彼の人気はここでもあがった。

  宗白は世つぎや側室の診察もやった。すなわちc奥御殿のどこへも出入りが自由。だれだって病気で死にたくはないのだ。

  宗白は殿のお気に入りとなった。なにかにつけて呼び出されc話し相手をさせられる。普通の家臣だとこうはいかないがc医師なので文句のつけようがない。

  これをこころよく思わない者もcもちろんあった。しかしc宗白の腕はあきらかc病気になった時に手を抜かれたらと思うとc表だって意見もできない。

  宗白にしてもc他人の反感を買いたくはない。家臣たちの欠点はしゃべらなかった。

  宗白はc重臣たちの家からc診察をたのまれるようになった。医師なら堂々と呼べるしc金も渡せる。殿の前でよけいなことを言わないでくれとのcつけとどけの意味もある。

  現実にcその家族たちを診察することもあった。気を静める薬草を大量に飲ませるとc内心のことをしゃべりだしたりする。なかなか面白かったしc参考にもなった。いずれcなにかの時に役に立つだろう。

  年月がたちcむすこの宗太郎が少年になった。宗白は彼を長崎に留学させることにした。その費用は充分にある。またc西洋医学がすぐれているとのうわさをc耳にしてもいた。自分の代のうちはcいまのやりかたでなんとかなるだろう。しかしcそのあとの準備をしておいたほ

  うがいい。宗太郎は出発していった。

  宗白は殿からc人事についての相談を受けるようになった。彼は各家臣の家庭の事情にまで通じておりcだれが有能かを知っている。しかしcあからさまに言っては波乱のもとだ。健康状態にことよせたりc相性や占いにことよせたりしてcそれとなく進言する。それは採用され

  c藩政の向上に役立った。

  一方cそのあとしまつもやる。人事で格下げになった者はc病人に仕上げcこんなふうになぐさめるのだ。

  「あなたは運がいい。いままでのような激職にいたらc疲労で助からなかったでしょう。いまならcわたしの手当てで命をとりとめます」

  「そうだったか。よろしくたのむ」

  またc新しく家老となった者の子息を病人にしc高額の治療費を請求する。

  「入手しにくい高価薬を使ったのです。お支払いの金がないとはc困りましたな。ではcこうしましょう。城下のある商店がc営業の許可を求めています。それをなんとかしてあげて下されば」

  「うむc努力してみよう」

  そしてc商店のほうから金をもらう。

  かくしてc宗白は藩内で隠然たる勢力を持つに至った。殿から領民に至るまでの信用をえている。商人たちという資金源もある。

  ある時c家臣のひとりがc宗白に陰謀を持ちかけてきた。二人で組めばcお家のっとりも可能だcそれをやろうと言う。

  宗白はその相談に乗るふりをしc油断させて薬を飲ませc治療の手を抜きc死なせてしまった。藩の害虫とはcこういうやつのことだ。生かしておいてcろくなことはない。

  それにcなにもあんなやつと組まなくたってcその気になれば自分ひとりで。

  ところでcと宗白は考えた。いつのまにかcこれだけの実力が身についた。なにをやったものだろうか。

  しかしcなにも思いつかない。殿になれるわけでもなくc家老にもなれない。またcその必要もなくcいますべてが意のままだ。

  この勢力をとなりの藩に及ぼすこともできない。もっと大きな藩に仕官しなおすこともできない。

  考えられるでかい計画といえばc参勤交代の殿にくっついて江戸にあがりc殿を幕府の要職につけるようc運動してみることだ。薬を使いc殿を老中にのしあげcそれに進言して国政を動かすか。しかしc江戸には頭のいい連中もいるだろうしc発覚したらみもふたもない。それ

  にc国政を動かしたってcあまり面白いことではあるまい。

  平穏第一で幕藩体制がかたまっておりcやれる限界は目に見えている。そういう時代なのだ。江戸時代になってからの大事件といえばcせいぜい由井正雪ゆいしょうせつc忠臣蔵ちゅうしんぐらc天てん一いち坊ぼうぐらいのもの。いずれも最後

  は悲劇的な幕だ。幕府にたちむかっても勝てないのだ。

  将軍のお気に入りとなってc出世して実権をにぎった者もある。しかしcやはりそれも長つづきしない。たいしたことのできる時世ではないのだ。

  宗白は自分の実力を持てあましながらc日をすごした。いやcこういうのを実力とはいえない。ひずみをうまく利用できただけのことなのだ。

  なにもたくらまなかったのはc賢明といえよう。藩内での宗白の人望は低下せずc失脚もしなかった。

  また年月がたちc長崎へ留学していたむすこの宗太郎が

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